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釜石医師会報

No.355 令和3年8月号

釜石市の集団接種

釜石市の新型コロナウイルスワクチン接種の集団接種会場で住民に接種を行う釜石医療団。

巻頭言

個人情報保護法とコロナ感染
平野内科医院 平野 春人

 平成15年5月30日個人情報保護法が施行された途端に、これまでの医療、と言うより患者さんへの対応、いわゆる接遇に大きな変化を生じてしまいました。その法律の骨子となるものは個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的としており、その個人情報とは氏名、生年月日その他の記述などにより特定の個人を識別することができるものとされています。
 当時の記憶を辿ってみると(間違っている部分もあるかもしれませんが)自分の勤めていた某県立病院でも外来などでの対応が早速変わりました。まず呼び出しに患者さんのフルネームは用いずにカルテ(診察券)の番号を読み上げることになりました。当初は医療関係者や患者さんも戸惑い間違う事も多く、だんだん慣れてきましたがどうしても違和感が残りました。ただ今となってはジェンダーの問題などもありこの対応の方が優れているのかもしれません(自分の外来では極力名字だけでの対応を心がけていますが)。
 次に病状説明などは本人を交えなければ行わなくなり(認知症などをのぞき家族のみの説明は行わなくなった)、必然的に癌患者さんへの告知(予後告知も含め)も好むと好まざるを得ず、なし崩し的に機械的に行われるような風潮になりました。非常に微妙な問題でしたが、自分とすれば嘘をつかずに済むので、患者さんとの相互信頼関係を築くのに大いに役に立った記憶があります。
 さてそのような法律ですが、現在のコロナ感染に関しては一言物言いをしたくもなります。感染された方の氏名と感染したと思われる場所がほとんど発表されないため、具合が悪くて来院された場合の対応が難しいものとなっています。発熱を呈している患者さんには別な出入り口から入退室していただくのが原則ですが、複数の方が来院された場合には対応できず断らなければならなくなる場合もあります。また情報が制限されているため診察にも慎重にならざるを得なく、どうしても間に板を挟んだような少し冷たいとも思えるような接し方しか出来なくなってしまいます。
 孫子の名言で「敵を知り己を知れば百戦して危うからず」という言葉があります。感染予防の観点からすれば感染した方々の情報がもっと判明すればもう少し上手いやり方や外来対応が可能になるのにと思うところです。その方と接触したと思われる方々が自分で来所していただき皆P C R検査を施すことによって、感染の蔓延を最小限にする事も可能と思われます。また当然ながら外来での来院患者さんへの対応もより的確にすることができるようになります。
 これだけ全世界的に感染者が拡がり死亡数も増加してきている状況において極論すれば国家危急の時でもあり、国家の存亡が個々の保護や利益に優先すると考えるところでもあります。(あくまでも個人の主観ですが)はてさて自分たち医療現場の前線に立つ関係者が、もっと声を上げていかなければならないなぁと思っていますが皆さんはどうお考えになられるでしょうか?
 

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